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日本のペニシリン開発
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日本のペニシリン開発に最初から従事された梅沢浜男博士が書かれたものが
あります。ランセットへの発表がAugust 16, 1941. でしたが,当時は入手が
困難でした。梅沢博士は偶然,ドイツ潜水艦で運ばれてきたドイツ医学雑誌
にペニシリンについて書かれていた記事を見て,それをたよりにして研究を
開始します。
1944年(昭和19年)1月末に日本でペニシリンを作るための委員会が軍に
より招集され,9月終わりには最初のペニシリン粉末を採取しています。
この間わずか8ヶ月。12月には森永製菓の工場で第1回目の製品ができてい
ます。しかし当時の日本には大量生産にのせるだけの力はなく実験規模の
生産だけに終わりました。
梅沢浜男 著:【抗生物質をもとめて】文芸春秋1987年から
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昭和18年の秋から,陸軍軍医学校を手伝うようになって間もなく, それは11月
の終わりの頃であったと記憶するが,軍医学校の稲垣克彦 少佐の部屋に行くと
机の上に外国の専門雑誌が載っている。
外国の文献が全く途絶えていたので,飢えた人が食べ物をみた時の ように,
それにかじりついて目を通していくうちに,ドイツの臨床週 刊誌ドイッチェ・
クリ−ニッシュウオヘン・シュリフトの中に『微生物 から得られた抗菌性物質』
というキーゼ博士の論文に目がとまった。 少佐に聞くとこれらの雑誌は最近,
ドイツから潜水艦で運ばれてきて, 文部省に届いたものであるという。
この論文には当時のドイツにはいってきた抗生物質ニュースを詳し く総括し
てあり,英国ではペニシリンの研究が非常に進んでいること, 臨床的にも威力
を発揮していることなどが書かれていた。キーゼ総説 をよんで以来,私はすっ
かりペニシリンにとりつかれてしまった。 命令もあり,私は昭和18年の暮れの
休みを利用して,この翻訳を完成 させた。稲垣少佐は これを持ってペニシリン
の必要性を 研究課題と してとりあげるように軍医学校の幹部に説いまわって
いた。
そして昭和19年1月27日朝日新聞にベルリン発の記事 『 英米最近の医学界,
チャーチル首相命びろい,ズルフオン剤を補 うペニシリン 』という見出しが
躍っていた。この記事は<魔法の薬> という表題で4,5回続したように記憶して
いる。
この記事の翌日には,稲垣少佐に”ペニシリン研究委員会の発足と, それに関係
する学者を全部集めろと”いう命令がでた。 メンバーは 柴田桂太教授(東大
植物学),薮田貞治郎教授(東大農学部。カビの 生産物で世界に知られた)
竹内松次郎(東大細菌学),田宮猛雄( 東大衛生),石館守三(東大薬学)な
ど20人ぐらいの方々。
まずペニシリンを作るカビを見つけることから始められ,6月ごろには, 有望
と思われる青かびの菌株が数種選択された ---- 9月おわりには 薮田教授か
ら提供された176株の培養液からわずかながら黄色い粉末が とれた。驚いたこ
とに,640万倍に希釈してもブドウ球菌の発育を阻止 した。これは大体30%ぐ
らいのペニシリンの純度であった。
---- 森永製菓の工場で ペニシリン生産をはじめ昭和19年12月に は第1回目
の製品ができた。昭和20年1月から万有製薬も参加した。
---- これは後から聞いた話だが アメリカ政府はペニシリンの開 発に2,500万
ドルかけたという。今(昭和55年)のお金に換算すると 500億円。日本の場合
稲垣少佐はこのプロジェクトのために15万円 準備したと言っておられたから,
今で言えば15億円。しかしこれをつ かうにも日本には物資がない時代であった
から全部はつかわなかった のではないかと思う。
----- 終戦後,私はGHQに日本のペニシリン研究について報告した。 翌21年には
GHQは日本のペニシリン生産のためアメリカの製薬会社 メルクにいた経験のある
テキサス大学のフォスター教授を招いた。 フォスター博士は,タンク培養用の
Q176菌株,それと瓶で培養する 表面培養用の1951B菌株という2つの菌をアメリ
カから持ってきた。 私は彼を案内して帝国臓器,明治製菓などを視察した。
----- 昭和21年7月頃からペニシリンどんどん作られるようにな った。全生産量
の90%が明治製菓からであった。昭和23年頃のはじ めは,まだ大掛かりなタンク
培養は始まらず瓶培養であった。
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