Monday, September 20, 2010

ペニシリン(その8):1941年ペニシリン治療10例の発表

写真: ハワード・フローリー博士(1898−1968),ペミシリン療法の開発者。
----------Gwyn Macfarlane: Howard Florey, the making of a great scientist.
----------1980, Oxford University press.


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オックスフォード大学での ペニシリン療法の開発
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1941年8月 英国の医学雑誌ランセットはオックスフォード大学の研究者
によってなされたペニシリンについての論文を掲載しました。

Abraham EP, Chain E, Fletcher CM, Florey HW,Gardner AD, Heatley NG, Jennings MA,
: Further obsevations on Pniecillin. The Lancet, 238:177-188, August 16, 1941.


1941年当時は,蜂窩組織炎,肺炎,ガス壊疽,敗血症などの細菌感染症の治療
にはドイツのドマーク博士らにより開発されたサルファ剤があるだけでその効
果は不十分でした。

論文は青カビが分泌する抗細菌物質(antibiotics=抗生物質)が細菌感染症
の治療に有効であることを世界で初めて示した歴史的なものです。わずか13
ページの論文で,臨床面の記載は3ページ半,8ページをペニシリンの基礎
面の研究報告に割いています。

今日の研究者ならまずペニシリンの製造特許をとり生産のノウハウは公開し
ないでしょう。論文も最低3つぐらいに分割されて,それぞれの専門分野の
雑誌に出すでしょう。

論文の記載内容は,
i) ペニシリン・カビの培養法,
ii)ペニシリン活性のアッセイ法
iii)培養液からのペニシリン抽出法
iv)32種類の細菌にたいするペニシリンの静菌作用
v)ヒト白血球,動物組織に対する影響
vi)マウス,ウサギ,猫,ヒトでのペニシリンの吸収と排泄。
vii)10例のヒト細菌感染症の治験
------① 43才:顔面,頭皮,眼窩部の蜂窩組織炎(ブドウ球菌と連鎖球菌)
------②15才:敗血症(連鎖球菌)
------③48才:皮下膿瘍(ブドウ球菌)
------④4才:眼窩部の蜂窩組織炎と髄膜炎(ブドウ球菌)
------⑤14才:骨髄炎と敗血症(ブドウ球菌)
------⑥6ヵ月:尿路感染症(ブドウ球菌)
------⑦ 32才:角膜潰瘍(ブドウ球菌)
------⑧19才:顔面の膿痂疹,結膜炎
------⑨24才:左眼の異物と結膜炎
------⑩20才:化膿性結膜炎

研究はチェインとフローリーにより計画され,生化学面は主としてチエインとア

ブラハム。ヒートレイがペニシリンのアッセイ,生産管理と改善。ジェニングと
フローリーは動物実験。ガードナーは微生物学。フレッチャーが臨床を担当
しました。研究費はMedical Research Council と Rockfeller foundationから
出されています。論文の著者はアルファベット順にしています。

この研究がドイツあるいはアメリカでなく,戦時の物資の乏しいの英国で,1つの
研究室に行われました。歴史を振り返れば,このペニシリン治療の開発のみならず,
すぐれた研究はりっぱな施設設備のあるところで生まれたためしがありません。
また,先駆者に共通していることは,取り憑かれたように研究に熱中し,物の不足
と周りの劣悪な環境に対しての不満をけっして口にしていないことです。

生命科学を専攻している学生,若い研究者の方,是非このランセット論文を読ま
れ,フローリー教授をはじめとした,このオックスフォード大学の研究者達の熱
意と情熱を汲み取られんことを。


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