彼らの得たペニシリンの抗菌力は重量換算でスルホンアミドの20倍も強力で
あった。
ここでチェンは不思議な行動にでる。ペニシリンの生化学分析が実験の
なのに、3月19日チェンはマウスに40~80mgのペニシリンを静脈注射した。
つぎに J.M.Barnesにたのんで、2匹のマウスに1mlずつ注射したがなにも
起こらなかった。しかしチェンにとっては『大変意義深い日であった』と
彼自身振り返って語ってる。
そのあと彼はフローリーに話した。フローリーは薬理学のJ.H.Burn教授
にマウスの注射をたのんだ。
『フローリとジェニングがサンプルをもってきて マウスの尾っぽ
の静脈注射を頼みに来た。静脈注射したがマウスになにもおこら
なかった。それが何であるのか何のためか説明なかった 』
次ぎの2ヶ月のあいだにフローリーはDr.Jennings, Kentらと動物実験をおこなう。
動物種:ラット、マウス、兎、猫
投与経路:静脈注射、腹腔内注射、皮下注射、経口投与、胃チューブ
十二指腸チューブで投与。
それぞれの投与後の血中濃度と持続時間の測定をされた。胃で破壊されるが、
十二指腸チューブで投与すると小腸から吸収される。ペニシリンは血液中より、
1〜2時間で早やかに消えそして尿中に排泄される。
毒性試験:白血球でおこなわれた。1 in 500の濃度でも影響なし。組織培養細胞
でも影響なし。
Dr.Gardner と Miss Orr-Ewingはどの細菌がペニシリンに感受性をもっているのか
しらべた。淋菌gonococcus,髄膜炎菌meningococcus,ブドウ球菌staphylococcus,
連鎖球菌streptococcus,炭疽病菌anthorax bacillus,actinomyces,破傷風、ガス壊疽
をおこす微生物に効くことがわかった。大葉性肺炎やジフテリアを起こす菌は
濃度1:200,000で阻止される。チフス菌は毒性レベルに近い濃度で効果あるが,
結核菌は効かない----------。
Gardnerはペニシリン存在下での細菌を観察し、膨れて長くなるが、分裂せずに
バーストし死ぬ。ペニシリンはおそらく細胞分裂の過程をブロックするのであろ
うと考えた。
そしていよいよマウスをつかって、ペニシリンの動物実験をおこなった。
ヒートレイの実験ノートにつぎの記録がある。
1940年5月25日.8匹マウスをつかった。まずマウスにとって致死量
の連鎖球菌 110,000単位を腹腔内投与する。
そのあと4匹にはペニシリン投与する、あと半分はコントロールと
して投与しない。投与しない4匹は14時間以内に死亡。
10mg投与した2匹は4日、6日生きた。さらに5mgの連続5回投与
した2匹は6週、13週それぞれ生きた。
つぎの月曜日 10匹で実験開始
火曜日 16匹で連鎖球菌の投与量2倍にして実験開始。
ペニシリンは効果あるのがはっきりとわかった。
マウス75匹で実験:50匹投与,25匹コントロール。
マウス50匹で実験:連鎖球菌の投与量3倍にして。
マウスでブドウ球菌,ガス壊疽の菌をつかって実験。
1940年8月 これらのマウス実験結果はランセットに”Penicillin as a chemotherapeutic
agent"という題で発表された。
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Gwyn Macfarlane, Howard Florey- the making of a great scientist,
1980, Oxford University press. から翻訳。